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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(行ツ)20号 判決

上告人

木島幸夫

右訴訟代理人

糸賀悌治

被上告人

茨城県知事

竹内藤男

右補助参加人

尾形雅夫

右参加人

国分株式会社

右代表者

国分勘兵衛

右訴訟代理人

栗原幸一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人糸賀悌治の上告理由について

原審の適法に確定した事実によれば、本件土地は、本件売渡処分後の昭和四六年三月一五日に告示された都市計画決定により農地法四条一項五号に規定する市街化区域内にある農地となつたというのであるから、仮に本件売渡処分が取り消されて本件土地の所有権が国に復帰することとなつても、本件土地はもはや同法三六条一項によつて上告人に売り渡される可能性がなくなつたものというべきであり、したがつて、上告人は本件売渡処分の取消しを求める法律上の利益を有しないものと解するのが相当である。これと同旨の見解のもとに本件訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 谷口正孝)

上告代理人糸賀悌治の上告理由

一、原判決は判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

原判決は第一審判決の理由を引用して上告人のように売渡処分の相手方でない第三者が農地法第三六条第一項による農地売渡処分の取消を求むる法律上の利益があるというためには右売渡処分が取消されることにより当該土地の所有権が国に復帰するならばその者が自ら当該農地の売渡を受けその所有権を取得し得べき地位にあることが必要であると解すべきところ本件の場合は自創法第三条による買収農地である本件土地が本件売渡処分の後である昭和四六年三月一五日都市計画決定により農地法第四条第一項五号に規定する市街化区域内にある土地となつたので、たとえ本件売渡処分が取消されたとしても農地法第八〇条及び同法施行令第一六条一項五号により農林水産大臣がこれを旧所有者に売払はなければならない土地であり上告人に対しては売渡される余地はないのであるから上告人には本件土地の売渡処分の取消を訴求する法律上の利益なしと判断して上告人の訴を却下した第一審判決を相当として控訴棄却の判決を為して居る。然しながら右の判断は明らかに法令違背である。即ち国が自創法第三条により買収した農地については農地法第八〇条の適用があるが、農地法第八〇条第一項は農林水産大臣は買収農地について政令で定めるところにより自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたときはこれを売払い、又はその所管換若しくは所属替をすることができると定めてあり同条第二項は農林水産大臣は前項の規定により売払うことのできる場合その土地が農地法第九条第十四条又は第四十四条により買収したものであるときはその土地を買収前の所有者又はその一般承継人に売り払はなければならないと規定して居る。

更に農地法施行令一六条第一項五号には買収農地が市街化区域内にある土地である場合農林水産大臣は前記農地不適性の認定をすることができると定めて居る。

以上の法令は自創法第三条によつて買収し国の所有となつた農地で市街化区域となつた土地について農林水産大臣は自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めることができる而して右の認定を為したときは売払等の処分を為すことが出来る旨を定めたもので農林水産大臣が必ず右認定をしなければならないものと定めたものでないことは明らかである。即ち農林水産大臣は右土地の環境、現状等を充分調査して前記認定を為すか否か裁量を有することを定めたもので右法令の趣旨から農林水産大臣が前記認定を為さずしたがつて当該土地を旧所有者に売払はない可能性のあることは明かである。

殊に本件農地は土浦市の南西部に当り周辺の土地一帯が道路の整備が悪く住宅地に適せず人口漸減の傾向にあつた土地であり昭和四七年から建設省で土浦市の市街地の交通繁雑を避けるためバイパスを建設する予定地と選定したのも本件土地が過疎地であつたからである。而して昭和四六年に市街化区域に指定して以来一〇年を経過しても現在の状況は依然として栗林であり(別添写真参照)昭和四六年市街化区域とされた当時に市街地を形成している区域又は概ね一〇年以内に市街化を図るべき区域とするに適しない土地であつたから本件土地が市街化区域内の土地であつても農林水産大臣は調査の上農地法第八〇条第一項の自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めない可能性が充分に存する。従つて農地法第八〇条第二項によつて旧土地所有者に売り払いとならない可能性も充分に存する。

従つて原判決が農地法施行令第一六条第一項第五号に掲記された市街化区域内の土地は同項各号の土地と共に自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする客観的事実がある場合を具体的に類型化したものと解し右土地について農林水産大臣の裁量を認める余地がなく農林水産大臣は必ず当該土地について農地法第八〇条第一項の認定をし且これを旧所有者に売渡さなければならない拘束を受けて居ると解し旧所有者に売払はれない可能性を全く否定して居る判断は誤りである。市街化区域内の農地であつても種々雑多の状況にあり、農林水産大臣は調査の上自作農創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当とする土地であるか否かを認定することが出来ると農林水産大臣の裁量の余地を認めたのが農地法第八〇条第一項農地法施行令第一六条第五号の法意であることは文理上極めて明白であり原判決の前記判断は法令に違背するものであり右の判断を前提として上告人に対し本件土地の売渡を受ける余地は全然ないとした原判決は法令に違背するものである。

而して上告人が本件農地について農地法第三六条第一項第一号によつて売渡を受ける権利ありと主張して居る本件の場合に於いて農林水産大臣に前記の如く裁量権があり本件土地が旧土地所有者に売払はれない可能性があり本件土地が国有として農林水産大臣の管理下に残る可能性があれば上告人に売渡になる可能性もあることになるのであるから、上告人の本件訴も訴求の利益があることになる。

然れば上告人に本件土地の売渡を受ける地位が全然なしとして訴却下の判決を為した第一審の判決を相当として控訴棄却の判決を為した原判決は失当であるからこれを破棄し、本件を東京高等裁判所に差戻す御判決を求めたく本件上告に及ぶ次第である。

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